桜の花びら舞う頃に
悠希は瞳をとじる。

先ほどの、首を傾げて微笑む拓海の姿がまぶたに浮かぶ。



「あいつ……悲しみや寂しさをこらえて無理して微笑む時……首を傾げる癖があるんです」



その言葉に、さくらはハッとした。



「本当は寂しいくせに……いつも人に気を遣って……」



悠希は、まぶたをゆっくり開いた。



「だから……今日の発表を聞いて決心しました」



悠希は胸の前で拳を握りしめる。



「そろそろ……前に進んでみようかと」

「悠希くん……」

「もちろん、由梨のことは忘れられないし、忘れたくない……」



握りしめる拳に力が入る。



「でも、た~のために過去を忘れて、母親になってくれる人を探さないと……って、思ったんだ」

「悠希くん……」

「もちろん、すぐに見つかるとは思ってないけどね」



そう言って、悠希は微笑んだ。

その首を傾げながら。




「……悠希くん、あのね……」




さくらが口を開いたその時━━━




『ピンポンパンポーン♪
 下校の時刻になりました!
 校舎内に残っている人は、早く帰りましょう』




校内放送で、下校時刻を告げる放送が流れる。

この放送が流れると、校舎内の子供たちは下校しなければならない。



「……それじゃ俺、た~を迎えに行くから」



悠希はそう言うと一礼した。


「それじゃ……」


そして、さくらに背を向け、教室から出ていくのだった。







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