桜の花びら舞う頃に
スーツ姿の由梨は、教壇に立っていた。

背筋をピシッと伸ばすその姿は、見る者に好感を与える。


教室内には小さな机と椅子。

それらはきちんと整えられ、そこには真新しいスーツに身を包んだ子供たちが座っている。

その表情は、新しい環境に緊張している顔、不安そうな顔から、楽しみでたまらない顔、やる気に満ち溢れているという顔まで多種多様だ。

様々な想いを乗せた小さな目は、一斉に彼女に向けられていた。


「みなさん、おはようございます！」


彼女は一礼すると、明るい笑顔で挨拶をした。

少し幼さを残したような、しかし良く通る元気な声。


「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます！」


この祝いの言葉も、とても嬉しそうに聞こえる。


「今日から、みなさんは、この桜ヶ丘小学校、１年２組の児童です。みんな元気に来てくれて、とっても嬉しいです！」


新入生にも聞き取りやすいように、言葉を区切りながらゆっくりと話す彼女。


「私は、この１年２組の先生です。名前は、綾瀬 さくらといいます」


そう言うと、大きな色画用紙で作った桜の花を黒板に貼った。

その桜色の画用紙には、大きな文字で


あやせ　さくら


と書いてある。


「あやせ……さくら……？」


教壇に立つ彼女、それは自分の妻などではなく、先ほどプログラムを拾ってくれた彼女であった。

そのことに気付いた悠希は、半ば自嘲ぎみに苦笑した。


「他人の……空似……ってやつだよな……」


悠希の胸は少し落ち着きを取り戻してきた。



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