桜の花びら舞う頃に
手を振りながら近づいて来るさくら。



「こんにちはっ!」



そう、そしてこんな風に元気に挨拶してくれるのだ。


「こんにちは、さくら先生ー!」


隣りで、拓海の元気な声が響く。




(うん、しっかり挨拶が出来て偉いぞ! ……って、あれ?)




拓海の声で我に返った悠希。

その目に飛び込んできたのは、さくら本人だった。

どうやらさきほどの挨拶の声は、実際に目の前のさくらから発せられたものだったらしい。


驚きのあまり、悠希の鼓動は急激に早くなる。

そして、その音は目の前のさくらに聞こえるのではないかという程だった。



「こ、こんにちは!」



思わず、声が上擦る。


「わ~い、さくら先生~!」


拓海は、そんな悠希をよそに、さくらに抱きついていった。


「あははっ、た~君はいつも元気ねぇ」


さくらはしゃがみ込み、拓海を抱きあげた。

さくらは拓海を『た~君』と呼ぶ。

他にその呼び方をする人はいないので、とても新鮮で、少し特別な感じがして悠希は嬉しかった。


「うん、僕はいつも元気だよ~!」

「あははっ、そうだったね!」


無邪気に笑い合う2人。

柔らかい空気がそこには流れていた。




笑顔のさくらは、ふと悠希たちのカートに目を落とした。



「お肉、人参、ジャガイモ、玉ねぎ…」



さくらは顔を上げる。



「わかった! 今夜はカレーね?」



その笑顔に、悠希は胸が熱くなる。

それは、さくらが由梨に似ているからなのか、それとも特別な感情が沸き起こっているからなのか、悠希にはまだわからなかった。



(もし……さくらちゃんと一緒に食べられたら……)



悠希の鼓動は、更に高鳴っていく。







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