桜の花びら舞う頃に
原付バイクのシートにまたがった男は、安堵のため息をついた。

自分を追ってくる足音は、まだまだ遠いところにある。

これなら、十分余裕で逃げることができるはずだ。

安心した男は、悠希をあざけるように振り返った。




……その瞬間!




「!?」




目前に迫る物体。




「ニンニク!?」




その正体を認識した瞬間、寸分違わずニンニクは男の眉間へと命中した。



「ぐはぁっ!」



砕け散るニンニク。

シートから転げ落ちる男。

男は、何が何だかわからないという表情のまま、背中を地面に強打した。






━━━男に放たれたニンニク。


それは、悠希が投げつけたものだった。



「間に合わない!」



あきらめの気持ちが、悠希の心を支配しそうになる。

刹那、座り込むさくらの足元にニンニクが転がっているのが目に入った。



「これだっ!」



悠希は、走る方向を転がるニンニクへと変更した。

走りながら体勢をかがめ、落ちているニンニクを拾い上げる。

そして、そのままスピードを殺さず飛び上がった。

男を目掛けて、ニンニクを投げつける悠希。

野球の内野手が見せるジャンピングスローである。

その姿は、まるで宙を駆るかのようだった。


悠希の腕から放たれたニンニクは、うなりを上げて男へと迫っていく。



一方、そんなこととは知らないニット帽の男。

余裕の表情を浮かべ、悠希を振り返った。

その瞬間、悠希の放ったニンニクは、見事に男の眉間へ命中したのだった。







< 155 / 550 >

この作品をシェア

pagetop