桜の花びら舞う頃に
シートから転げ落ち、背中を強打した男は、息が吸えずに口をパクパクと動かした。

しかし、ハッと我にかえる。



こんなことをしている場合ではない! と。



男は痛む背中をこらえ、再び逃走しようと起き上がる。



「ゲームセットだ!」



しかし、目の前に悠希が立ちふさがった。

男が動けなかったスキに、素早く間合いを詰めていたのだ。

腕を横に振り払いながら告げる逃走劇の終了。

その言葉に、男はへなへなと力なく座り込んだ。

どうやら、もう逃げられないことを悟り、観念したらしい。



「やったぁ、パパ!」



拓海が歓喜の声を上げながら、さくらの元に走り寄ってきた。


「やったね、先生!」

「うん、ありがとう!」


さくらは、差し出された拓海の手を握りながら立ち上がった。


「ねえっ、先生!」


拓海が顔を輝かせて、さくらに話しかける。



「先生! ニンニクって、すごいんだね!」



その無邪気な言葉に、さくらは思わず拓海を抱きしめていた。







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