桜の花びら舞う頃に
具材が煮込まれ、しばしの時が流れた。

頃合いを図り、いよいよカレーのルーが投入される。

今までの野菜ベースのスープから、次第にとろみのあるカレーへと変わっていく。


「これで、少し煮込めば完成だね」


そう言って、悠希は額の汗を拭う真似をした。


「じゃあ、あたし、お皿を並べとくね」

「うん、ありがとう。カレーの器は、その食器棚の一番上にあるから」


そう言って、さくらの真後ろにあった食器棚を指差した。

さくらは振り向くと、棚の一番上にあるカレーの器へ手を伸ばす。



「ん~!」



しかし、さくらの指は届かない。

背伸びをしたり、少し飛び上がって、ようやく指先が器に触れる程度だった。


「くぅ~!」


それでも、懸命に手を伸ばすさくら。


その時、さくらの手の上から別の手が現れる。

その手は、しっかりと器をつかみ上げた。



「ゆ、悠希くん!」



さくらの胸が激しく脈を打った。

照れくさいような不思議な感覚に、思わず顔が赤くなる。



「無理するなって」



悠希は笑いながら言った。



「うん……悠希くんって……背……おっきいんだね……」



伏し目がちに言うさくら。



「そう? さくらちゃんが、ちっちゃいんじゃない?」

「も……もうっ!」



イタズラな笑みを浮かべる悠希に、さくらは素早い反応を見せた。



「身長……気にしてるんだから……!」



唇をとがらせる。

その様子に、思わず吹き出す悠希。


「もうっ! おかしくなんか、ないんだってば!」

「あはははは! ごめん、ごめん!」


涙を拭きながら、悠希は謝罪の言葉を述べる。


「もうっ……!」


口ではそう言いながら、つられて一緒に笑うさくらだった。





2人の笑い声は、香ばしいカレーの香りと共に部屋中に広がっていった。













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