桜の花びら舞う頃に
「ねぇ、悠希くん……」



一瞬、考えを見透かされたのかと思い、悠希の胸は強く脈打った。

しかし、さくらの続く言葉は、悠希の予想通りではなかった。



「授業参観の日に言ってた……た~君のママ候補……見つかったの?」




(ああ、その事か)




悠希は、首を横に振った。


「なかなか、難しいもんだよね~」


寂しげに笑う。


「母親になってくれる人もそうだけど……」

「うん……」

「俺が……ダメなんだよね」


悠希は足を止め、夜空を見上げた。

少し風が出てきたようだ。

雲が流れていくのが見える。



「由梨を忘れようとはしてるんだけど……まだ、時々夢に見るんだ……」



夢の中の由梨は、いつも悲しみの表情を浮かべている。

その顔を見るたびに胸が苦しくなる。

そして、由梨はいつも悠希に話しかけてくる。

何かを伝えようと口を開く。

しかし、その声はいつも悠希の耳には届かなかった。



「由梨の声が……聞こえないんだ……」



声を忘れたわけじゃないんだけどね……と言って、悠希は寂しく微笑んだ。



「悠希くん……あのね」



さくらも足を止める。

悠希を見つめると、自分の胸に手を当てて話し始めた。



「忘れること……ないと思うの!」



正面から、悠希の顔を見つめる。



「由梨さんとの出来事……なかったことには出来ないでしょう?」



目を伏せるさくら。胸に当てた手を、強く握り締める。



「他の人の心の中から、由梨さんの姿が消えて行ったとしても……」



さくらは再び悠希を見つめた。



「悠希くんには忘れないでいてほしい!」


「さくらちゃん……」


「由梨さんと生きた証……どうか忘れるなんて悲しいこと言わないで……」



静かに言うと、さくらは胸に当てた手をゆっくり下ろした。



「ありがとう……」


「ううん……あたし思うんだ」






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