桜の花びら舞う頃に
さくらは、この景色を心に刻み込むように目をつぶった。



「悠希くんもやってみて」



悠希も、そっとまぶたを閉じる。



「この輝きを忘れないで……」


「さくらちゃん……」


「悠希くん……」


「ねぇ~っ!」



静かな空気が流れる中、不意に現れた拓海の声。

2人は、心臓が飛び出るのではないかというほどの驚きぶりを見せた。



「な、な、な、何だ?」


「う、うん、どうしたの?」



背中の拓海は、一度大きくあくびをした。


「なんでパパは『さくら先生』って呼ばないの?」

「あ……あぁ、そのことか」


拓海の質問に、少し気が抜けた声が出た。

どうやら『ちゃん』『くん』で呼び合っていることに疑問を感じたらしい。



「それは……」



一瞬迷ったが、そのまま言葉を続ける。



「それは……友達だからだよ」



我ながら、なかなか上手い返し言葉だと悠希は思った。


「う、うん、そう! 昔からの友達なの!」


さくらも、悠希に話を合わせる。

『昔からの』と付け加えるあたり、流石と言えるだろう。


「ふ~ん、そっかぁ」

「うん! あ、でも、これもお友達には内緒よ」

「ほ~い、おやすみ~」


納得した様子の拓海は、再び悠希の背中で眠りについた。


「まったく……なんだったんだ」

「た~君、もう寝ちゃった……」


背中から聞こえてくる小さな寝息に、2人は顔を見合わせて笑った。







< 179 / 550 >

この作品をシェア

pagetop