桜の花びら舞う頃に
「……うう、寒っ!」
しばらく空を眺めていた悠希だったが、夜の風に思わず身体を震わせた。
春とはいえ、夜はまだまだ肌寒さを残している。
悠希は窓を閉めると、拓海の様子を見に寝室へと向かった。
「今日のた~は……いつもと同じかな?」
静かに扉を開け、そっと中を覗き込む。
ベッドの上には、安らかな寝息を立てる拓海がいた。
穏やかな表情で眠る拓海だが、悠希の予想通りベッドの上は一通り暴れた後がある。
布団はめくれ、身体は上下逆を向き、普段は悠希が寝るスペースをも、大の字に広げた小さな身体で奪っていた。
「いや……今日のは、一段とスゴいな……」
ため息混じりに苦笑する悠希。
ベッドの縁には、転落防止用の柵が付けてある。
そのため、よほどのことがない限りベッドから落ちることはない。
だが、今日の寝相を見ていると、その柵だけでは足りない気がする。
キングサイズのダブルベッドを購入しておいて良かったと、つくづく思う悠希であった。
悠希は上下逆さまに寝ている我が子を直すため、拓海の身体を抱きかかえる。
持ち上がらないほどではないが、腕になかなかの重量がかかる。
「大きくなってるんだな……」
我が子の成長に嬉しい反面、少しさびしさも感じる悠希だった。