桜の花びら舞う頃に
玲司が出て行き、2人だけとなった麻紀の部屋。


麻紀は、さくらの正面へと座る位置を変えた。



「さくら……もしかして、まだ涼介のことを……」


「ううん、それはない」



キッパリと否定し、さくらは首を振った。



「涼ちゃんは、もう過去の人だよ……」



その目は悲しみをたたえてはいるが、決して強がりを言っているわけではなかった。



「そっか……」



麻紀は、さくらの瞳を見つめる。


「……本当に吹っ切れてるみたいね」

「……うん」


自分を真っ直ぐに見つめ返してくるその瞳は、もはや涼介への未練は感じられなかった。


「……ついこの間まで、涼介の話をすると死にそうなくらい悲しげな顔してたのにね」


優しく微笑む麻紀。


「そうだっけ?」

「うん、涼ちゃんのことは言わないでー! ……って」


麻紀の言葉に、さくらは照れくさそうに苦笑いをした。


「そうだった……かも」

「それが、こうして過去にすることが出来たんだね……」


麻紀は、目の前にあった2つのグラスにワインを注ぐ。

部屋中に、甘酸っぱい香りが漂った。

片方を自分で持ち、もう片方をさくらに渡す。



「そういえば……さくらの悲しげな顔を見なくなったのって……悠希くんと出会った辺りからじゃない?」



手にしたグラスを、そっと前に突き出した。

さくらも、同じようにグラスを突き出す。

澄んだ音色が鳴り響いた。



「悠希くんと出会ってからかぁ……何でだろ?」


「あんた……それ本気で言ってる?」


「うん。何でだろねぇ?」



さくらは、本当にわからないという顔をしながら、チビりとワインを口に含んだ。

甘い酸味が、口という狭い空間に閉じ込められる。

目を閉じれば、広大なぶどう畑が脳裏に浮かぶ。

その幻想を楽しみながら、ゆっくりと喉の奥へと流し込んでいく。




「何でって……悠希くんのことが、好きなんでしょ!」


「……!?」






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