桜の花びら舞う頃に
麻紀のその言葉に、喉を通過中だったワインは気管の中に侵入した。

激しく咳き込む。

思わず涙が出る。


麻紀は、慌ててさくらの背中を叩いた。


「ちょ、ちょっと! 大丈夫?」

「ごほっ! ごほっ! ……ありがと、麻紀ちゃん」


さくらが少し落ち着いたことを確認すると、麻紀は新しいグラスに水を注いで手渡した。


「ありがと……」


さくらは、その水を一気に飲み干す。


「……ぷはぁ! 助かった~。……もう、麻紀ちゃんが変なこと言うからだよ!」


少しおどけて頬を膨らますさくら。






だが━━━






「私は、真面目に言ってるんだよ」




麻紀は、真剣な表情でさくらを見つめた。


「あんたの、今までの話を聞く限りではそうとしか考えられないよ」

「え~!? ……そりゃあ、悠希くんのことは嫌いじゃないし……一緒にいて楽しいし……心許せる人だけど……」


そう言うと、さくらは隣りにあった丸いクッションをギュッと抱きしめた。



「そっか……好きかぁ……」



1人つぶやいてみる。

悠希と初めて出会ってから、今までのことが思い起こされる。






桜舞う校庭。




1年2組の教室。




悠希の心に触れた、フレアでのあの出来事。




授業参観の時に感じた想い。




スーパーでの再会。




楽しく、美味しかったカレー。




そして、その帰り道での騒動。






さくらの顔が自然と赤くなる。

鼓動が、早く、強くなるのを感じていた。

それは、アルコールのせいなのかもしれない。



ただ、その表情はどことなく嬉しそうに見えた。








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