桜の花びら舞う頃に

その瞬間━━━




グッ!




と、由梨は悠希の手をつかんだ。

それは、驚くくらい強い力だった。



「由梨……?」


「━━━……」



由梨は、悠希には聞こえない言葉を発する。

そして、優しく微笑んだ。

それはまるで、愛おしい我が子を見る母親のような、大きくて温かい笑みだった。





そして━━━





「うわっ、ちょっ……由梨!?」


手をつかんだまま、由梨は突然走り出した。

急に引っ張られる形になった悠希は、足がもつれて転びそうになる。

しかし、そこは持ち前の運動神経で、なんとか持ちこたえることが出来た。

片足で、タイミングを取りながら飛び跳ねる。


由梨は、悠希のその必死な姿が、あまりにもおかしかったらしい。

走りながらも大きな口を開けて、声なき笑いを見せていた。



「こらっ、お前は!」



そう言う悠希にも、自然と笑いが込み上げてくる。


2人は、走りながら笑いあっていた。



この、広い広い空間を……









< 217 / 550 >

この作品をシェア

pagetop