桜の花びら舞う頃に
その瞬間━━━
グッ!
と、由梨は悠希の手をつかんだ。
それは、驚くくらい強い力だった。
「由梨……?」
「━━━……」
由梨は、悠希には聞こえない言葉を発する。
そして、優しく微笑んだ。
それはまるで、愛おしい我が子を見る母親のような、大きくて温かい笑みだった。
そして━━━
「うわっ、ちょっ……由梨!?」
手をつかんだまま、由梨は突然走り出した。
急に引っ張られる形になった悠希は、足がもつれて転びそうになる。
しかし、そこは持ち前の運動神経で、なんとか持ちこたえることが出来た。
片足で、タイミングを取りながら飛び跳ねる。
由梨は、悠希のその必死な姿が、あまりにもおかしかったらしい。
走りながらも大きな口を開けて、声なき笑いを見せていた。
「こらっ、お前は!」
そう言う悠希にも、自然と笑いが込み上げてくる。
2人は、走りながら笑いあっていた。
この、広い広い空間を……