桜の花びら舞う頃に
「な、何よ、月島くん……?」


「香澄さん……流石にエリカとか、女性の名前はマズいですよ。周りに、誤解されちゃいますよ」


「誤解じゃないわよっ!」



香澄は、声を荒げて悠希の腕を振りほどく。



「あのコは……一体、何なの!?」



その問いに、悠希はゆっくり口を開いた。



「……何なんでしょう」



ガックリうなだれる。


その姿は、まさに

トホホ……

と、いった感じだ。


「え……? あのコ、月島くんの知り合いじゃないの?」

「知り合いと言えば知り合いですが……」


詳しいことは、全て謎だと伝える悠希。


そして、エリカとのこれまでの経緯を説明する。

次第に、香澄の顔色が変わっていくのがわかった。



「何それ!」



香澄は、再び声を荒げる。


「私が、文句言ってあげようか!?」

「いや……いいです……」


香澄の申し出は嬉しいが、再び2人のやり取りの場に立ち会うのだけは避けたかったのだ。


しかし、香澄は引き下がらなかった。


「ダメよ、月島くん!」


腰に手を当て、仁王立ちになる。


「ああいうタイプは、ハッキリ言ってやらないと分からないのよ!」

「そうかも知れませんが……」

「また、煮え切らない態度! だいたいねー、月島くんが……」





キーンコーンカーンコーン……





その時、香澄の言葉を遮って、始業10分前を告げるチャイムが鳴り響いた。


「あ、ほらっ、チャイム鳴ってますよ!」


悠希はそう言うと、会社のビルに向かって走り出す。


「あ、月島くん! ちょっと待ってよー!」


それを追いかけ、香澄も走り出した。




(何だか……香澄さんに会うと、いつも走ることになるな……)




悠希は、心の中で苦笑せずにはいられなかった。








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