桜の花びら舞う頃に
「じゃあね、た~ちゃん」


「おばあちゃん、またねー!」


「いつも、ありがとうございます」



すみれを見送った悠希は、スーツを脱いで楽なスウェットに着替える。


ダイニングのテーブルには、大きな皿の上に鶏の唐揚げが山積みになって置かれていた。



「これ、僕もお手伝いしたんだよー!」



拓海は、山積みの唐揚げを指差して言う。


「た~が?」


こくりと、うなずく拓海。


「そっか~」


拓海が見つめる中、悠希は唐揚げを一つつまみ上げ、口に放り込んだ。


「……」

「……どう?」


悠希は、深く味わうように目を閉じ、唐揚げを丁寧に噛み締める。





━━━ごくん!




と、音を立て、ノドを通過する唐揚げ。

そして、目を開く。


「パパ……?」


悠希の言葉を、不安そうに待つ拓海。


そんな拓海に、悠希は最高の笑顔を見せた。



「美味いっ!」


「ホント?」


「ああ、本当! こんな美味い唐揚げ、食べたことないよ」


「やったー!」



両手を上げ、ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる拓海。


「あのね、あのね! いっぱい作ったから、たくさん食べてね!」


顔を輝かせ、拓海は冷蔵庫を指差す。


「冷蔵庫の中に、まだ入ってるの?」


笑いながら、冷蔵庫の扉を開ける悠希。





次の瞬間、その笑顔は凍り付くことになる。





冷蔵庫の中は、大量の唐揚げで溢れかえっていたから……







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