桜の花びら舞う頃に
ピンポ~ン!






それから10分ほどして、アパートの呼び鈴が鳴り響いた。



「来たかな?」



悠希は、玄関の扉を開ける。



「よ~う、元気してるかー?」



それは、果たして玲司だった。


仕事帰りに直接寄ったらしい玲司は、スーツ姿で人懐っこい笑顔を浮かべている。


「あーっ! 玲司のおじちゃんだ!」


玄関をのぞき込んだ拓海は、嬉しそうな声を上げた。


「よう、拓海! ……って、おじちゃんじゃないだろ」

「?」


玲司の言葉に、キョトンとした顔になる拓海。


「お兄ちゃんって呼ばないと……」


玲司は、後ろ手に持っていたスーパーの買い物袋から、おもちゃ付きのお菓子を取り出した。



「これ……あげないぞ?」


「そ、それはーっ!?」


「今、人気あるんだよな、コレ……?」



玲司が手にしている、おもちゃ付きお菓子。

それは、今、子供たちの間で大人気となっているキャラクターの、おもちゃが付いてくるというものだった。

小学校でもそれは話題で、例外なく拓海もハマっていた。


「ほしい……」

「だろ~? じゃあ、おじちゃんじゃなくて……」


その言葉に、拓海は姿勢を正す。



「こんばんは! 玲司お兄ちゃん!」



そう言って、深々と頭を下げた。


「よ~し、良くできたっ!」


おもちゃ付きお菓子を手渡された拓海は、小躍りして喜んだ。


「ありがとう、おじちゃん! 大切にするねっ!」

「ああ……って、お前は、また『おじちゃん』ってー!」

「あははははっ!」


拳を振り上げる玲司に、拓海は笑いながら奥へと逃げて行った。

その様子に、思わずもらい笑いをする悠希。


「ったく……アイツは……」


玲司は、かなわないというように首を左右に振った。


「相変わらず、いいコンビだな」


悠希は笑う。


そして、


「立ち話もなんだから……」


と、玲司を中へと誘うのだった。






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