桜の花びら舞う頃に
「……というワケ」

「な~んだ」


しかし、麻紀はあまり面白そうではない。


「な~んだって?」


麻紀の態度に、さくらは唇を尖らせた。


「だって、中学生とかじゃないんだから……」


ため息をつく麻紀。


「私はてっきり、キスくらいしたのかと」

「キス!? そ、そんなのしないよー!」


さくらは、あわてて首を左右に振る。

長い髪が、激しく揺れる。


「それでも、あたしは幸せだったんだよ……だから」


そこまで言うと、さくらは姿勢を正した。



「だから、ありがとう、麻紀ちゃん……」


「さくら……」


「これで、あたしはもう満足だから……」



さくらは微笑む。



「……アンタは、それでいいの?」


「やっぱり……教師と保護者の恋愛は……マズいよ」



その微笑みには、深い悲しみが溢れていた。


「だから……もう……ね?」

「さくらが、そう決めたんだったら……」

「……うん、だからありがとう……それじゃ……ね」


そう言うと、さくらは玄関の扉をゆっくり閉めた。




「さくら……本当にいいの?」




麻紀は、閉まった扉を見つめる。






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