桜の花びら舞う頃に
自分をしつこく呼ぶ声で、悠希は現実へと戻された。

気が付けば目の前に、パジャマ姿の拓海が立っている。


「うわっ、お前、いつからそこに!?」


不意をつかれ、驚きを隠せない悠希。


「ん~、いま~」


眠い目をこすりながら拓海は答える。


「そうか……」


回想中の自分を見られていなかったことに安堵した悠希。


「……で、どうした?」

「うん、パパ、おしっこ……」

「なんだ、おしっこか……じゃあ、早くトイレ行かないと」


悠希は拓海の手を取り、トイレへと連れて行こうとする。


「ん~、違うの、パパ」


悠希に引っ張られながら拓海が答える。


「ん? 何が違うんだ?」


眠くて、ふにゃふにゃしている息子に向き直る悠希。



「あのね~」


「うん」


「おしっこね~」


「うん」


「たれたの~」


「うん……って、ええっ!?」



見れば、拓海のパジャマにはシミができていた。


「お前、そういうことは早く言えよー」

「えへへ~、ごめ~ん」


そして、「ふわぁ」と大きなあくびを1つ。



(コイツは……)



全く反省しているそぶりのない拓海に苦笑いしつつ、着替えを用意する悠希。


「脱いだパジャマは廊下に置いとけばいいから」


拓海に一言告げ、寝室の様子を見に行く。

ベッドシーツを見ると、そこには大きなシミが出来ていた。


「オネショのシミを、誰が最初に世界地図と言ったんだろう……」


くだらない疑問を口にしながら、シーツをはがす。

掛け布団は、拓海の寝相の悪さが幸いし、床に落ちていたため無事だった。



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