桜の花びら舞う頃に
茶髪に、体のラインがよくわかる丈の短いワンピース。

墓地には似つかわしくない、ヒールの高い派手なパンプスという出で立ちのエリカ。


まさに、いつものエリカだった。

彼女は、すねたような顔をして悠希に近づいてくる。


「もーっ! エリカって呼んでって言ったじゃーん!」

「あ……ああ、そうだったね」


手を握ろうとしてくるエリカをさり気なく避けつつ、悠希は半笑いで答えた。


「もう! 照れなくてもいいのに……」



(別に、照れてるワケじゃない)



悠希はそう思ったが、あえて口にはしなかった。


続いて、エリカは拓海に視線を落とす。


「拓海くん、こんにちは~!」


拓海は一瞬体を震わせると、素早く悠希の後ろに隠れる。

そこから少しだけ顔を出し、


「こ……こんにちは……」


と、蚊の鳴くような声で挨拶を返した。


「あはは、可愛い~!」


エリカは笑う。

ますます困った様子を見せる拓海の頭に手を当て、悠希はエリカに話しかけた。


「こ……こんな所にいるってことは、エリカちゃ……」


キッと睨むエリカ。


「い、いや……エリカも墓参り?」


その迫力に気圧されて、悠希はあわてて『エリカ』と言い直した。

満足げに、大きくうなずくエリカ。


「そう、お墓参り。悠希は……奥さんの?」

「うん……まぁ……」


悠希は、チラリと自分の背後を見た。

エリカも、後ろをのぞき込む。








その時!







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