桜の花びら舞う頃に
「悠希……今の電話は?」


通話が終わるのを待っていたとばかりに、玲司が話しかけてきた。


「うん……た~。今から来てって」

「今から? 由梨ちゃんちに?」

「そう……大丈夫かな?」


悠希は、申し訳なさそうに玲司を見る。


「ああ、俺は構わないけど……何のようだって?」

「それが……言わないんだよ~」


ハンドルを抱きかかえるように、悠希は突っ伏す。


「電話の感じだと、切迫感は全くないんだけどな……」


悠希の車を後続車が追い抜いていく。

夏の日差し、車の熱気を受けて、蝉(せみ)の鳴き声が大きくなったような気がした。


「ったく……拓海には、かなわないよな」


玲司は笑う。

悠希も、つられて笑った。


「麻紀たちには、俺から連絡入れておくよ」

「ありがとう、玲司」

「よし、そうと決まれば、早く行こうぜ!」


白いステーションワゴンは、向きを変えると静かに走り出す。




一路、拓海の待つ由梨の実家を目指して……










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