桜の花びら舞う頃に
「じゃあ、ゆっくり進むから、僕について来てね~!」



そう言って、拓海は手を引く。



「は~い、そのまま真っ直ぐ~!」




(これは……かなり怖いな……)




何も見えないということが、こんなにも恐怖を感じることなのかと、悠希はつくづく思った。

思わず、目を開けそうになる。



「ダメだよ、開けちゃー!」



その瞬間、拓海の注意が飛ぶ。

なかなかどうして、拓海は目ざといようだ。


悠希は覚悟を決め、拓海の元気な声と、自分の足の裏の感触を頼りに歩き出す。



「はーい、ここ右に曲がるよー!」


「拓海、まだかよー」


「もう少し、もう少し」



玲司の問いに、軽く答える拓海。


目を閉じてから、まだ数分しか過ぎていない。

しかし、暗闇を進む悠希と玲司には、とてつもなく長い時間に感じられた。




(まだか……?)




草木の匂いが強くなってきた気がする。


「た~、そろそろ……」

「到着ーっ!」


悠希が言いかけた瞬間、拓海は元気な声を上げた。



「2人ともー、僕の合図で目を開けてー!」




(な、なんだ……?)




「いくよー? 1……2……3! はいっ!」






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