桜の花びら舞う頃に
━━━数時間後。





「ただいま~っ!」



学校から拓海が帰ってきた。


「あれれ?」


拓海は、『お帰り』の声が聞こえてこないことに首をひねる。


「パパ~?」


ランドセルを背負ったまま、寝室をのぞき込む拓海。


「あ……」


中の様子に、慌てて口を手で押さえる。

そして、そっと寝室を後にした。


忍び足で部屋まで行った拓海は、音を立てないようにランドセルを下ろす。



「……」



そして、無言のままキッチンへと移動すると、冷蔵庫の中から冷えた麦茶を取り出した。

それをコップに注ぎ、一息に飲み干す。



「……ぷはぁ!」



乾いた身体に、急激に麦茶が染み込んでいく。

いくらか、緊張もほぐれた気がする。

拓海は二杯目を注ぐと、ダイニングにある椅子にゆっくりと腰を下ろした。







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