桜の花びら舞う頃に
さくらは、そっとささやく。



「ねぇ……この声って……」

「ああ……エリカと香澄さんだ」



悠希は、絞り出すように言った。

この2人が揃うと、必ず騒動が起こる。




(なのに……最近、何故か一緒にいるんだよな)




そう思った瞬間、寝室の扉の前で足音が立ち止まる。




「こ~こ~か~?」




昔話の山姥(やまんば)のようなエリカの言い方。

寝室の2人は、まるで心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。

思わず、手を強く握る。



「あっ……」



温かな感触。

ようやく2人は、顔と顔を寄せ合い、手を握り合っていることを思い出した。




(こんなところを見られたら、後々何を言われるかわからない!)




その時、エリカの手がドアノブにかかる。


「さ、さくらちゃん!」

「ゆ、悠希くん!」


あわてて手を離す。

そして、悠希は下からさくらの肩をを押し上げようと手を伸ばした。






その瞬間━━━





━━━ガチャ!






ドアノブが回る音がする。


あわてて、扉の方を振り返る2人。






しかし……






悠希はその後、すぐに視線を外したことは間違いだったと思い知ることになる。




さくらの肩を狙った手。

それは、左手は見事にさくらの右肩を捉えたが……

右手は、あと少しのところで左肩をそれていく。



「きゃっ……」



片側だけ突き上げられる形となったさくらは、大きくバランスを崩した。




「ゆ~うき!」




笑顔のエリカが現れると共に響き渡る音。






ごちーん!






「あ……アンタたち?」

「なにやってるの……?」



扉を開けたエリカ。

そして、エリカに追いついた香澄の目に、飛び込んで来たものは……




額を押さえ、ベッドの上でもがく悠希と……




同じように額を押さえ、床の上にうずくまるさくらの姿だった……








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