桜の花びら舞う頃に
「ねぇねぇ、大丈夫~?」



部屋中に、エリカの甘えたような声が響く。


「ちょっと、アナタは落ち着きなさいよ!」


悠希に抱きつこうとするエリカを、即座に制止する香澄。


ベッドの傍らには、拓海が目をこすりながら座っていた。

拓海は、先ほどの騒ぎで目を覚ましたらしい。



一方、さくらはというと……



少し離れたところに、椅子を置いて座っている。

額を赤くし、困ったような険しい表情を浮かべるさくら。

時々、悠希と目が合うと、すっとすぐに目を逸らしてしまう。

その様子に、思わず悠希からため息が漏れる。



「月島くん……調子悪そうね……」



ため息の理由を勘違いした香澄は、悠希を心配そうにのぞき込んだ。

悠希は、苦笑いを浮かべながら頬をかく。



「……ところで、エリカと、香澄さん」



その空気に割って入るかのように、さくらは2人に声をかけた。


「今日は、どうしたんですか?」

「あら、お見舞いに来たに決まってるじゃない」


平然と答える香澄。


「愛する人が苦しんでたら、助けに行くのが普通じゃん?」


エリカも、香澄に続く。


「だ……だって、仕事は……?」

「アタシは休み!」


元気に答えるエリカ。


「私は、ちゃんとしてるわよ。今だって、会社には断ってきたんだし」


香澄はそう言うと、鞄から書類を取り出した。


「はい、これ」


そして、悠希に書類を手渡す。


「ちゃんと、目を通しておいてね」


悠希は、ペラペラと書類をめくる。

その全てが、別に今日見なくてもいいようなものばかりだった。


「朝、月島くんから会社に休むって電話があって……」


香澄は、胸の前で手と手を合わせる。


「仕事に、支障来すと困ると思って……迷惑だった?」

「い、いや、そんなことないです! ありがとうございます」


香澄の伏し目がちな視線にたじろぎながらも、かすれた声で礼を言う悠希。


「よかったー!」


香澄は、手を叩いて喜んだ。




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