桜の花びら舞う頃に
「もうっ、なんなのよーっ!」



怒れるさくらは、一気に包丁を振り下ろす。




ターン!




という乾いた音が、辺りに響き渡る。


まな板の上の人参は、真ん中から真っ二つに切れていた。


「だいたい、悠希くんも悠希くんよ!」


怒りの口調のまま、真っ二つにされた人参を、更に真っ二つに叩き切る。


「デレデレしちゃってさ!」




デレデレ━━━




もちろん、悠希はそんなつもりはない。


そして、そんな元気も余裕もない。


しかし、今のさくらにはそう見えるらしい。


まな板の上で逃げる人参を押さえつけては、真っ二つに叩き切るさくら。


そうして、人参は細かくなっていった。



次に、タマネギをまな板の上に置く。



「あたしが……鍵かけ忘れたのは、いけなかったけど……」



さくらは、ふと手を休めた。

横を向けば、食器棚のガラス戸に自分の顔が映っている。

さくらは、そっと唇に触れてみた。



「悠希くんは……あたしにキスしようとしたんだよ……」



そして、再びまな板と向き合うと、タマネギを刻みだした。



「あたしは、悠希くんの特別になったんじゃないの……?」



刻むタマネギが目にしみる。

泣きたくはないのに、涙が溢れてくる。



「悠希の……ばかっ!」




ターン!!




まな板は、一際大きな音を立てた。








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