桜の花びら舞う頃に
「ねえ、ねえ、悠希~!」



袖を引っ張るエリカに、悠希の意識は現実へと戻された。



「こ、今度は何だ?」


「アタシがさ、風邪が楽になるおまじないしてあげるよ!」


「……え? ……おまじない?」


「うん! ほら横になって!」



断る間もなく、横にされる悠希。

エリカは、そっと悠希の頭に手を当てる。



「もう、大丈夫だよ~」



そう言いながら、優しく頭をなでる。

その後、その手を悠希の額に当てると……



「風邪菌、風邪菌、飛んでっちゃえー!」



何かをつかむように手を握ると、空中に向かってその何かを投げた。

それを2、3度と繰り返すエリカ。


「あ……あの……一体、何を?」


悠希は、たまらず声をかける。


「アタシね、子供の頃、これやってもらうと楽になる気がしたんだ~!」


そう言って、エリカは笑う。


「何やってんだか……」


横で見ていた香澄は、思わず鼻で笑う。


「な……何よ!? アタシのおじいちゃんをバカにする気?」

「別に馬鹿にするつもりはないけど……」


香澄は、苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。


「風邪引きと言ったら、焼きネギに決まってるじゃない!」

「ネギ……?」

「ネギって……あの食べるネギ?」


「そうよ!」


香澄は、形のいい胸を張る。


「焼いたネギを半分に切って、ヌルヌルの部分をノドに当てるの」

「アンタ……歳いくつよ……」

「何よ! これが効くんだからね!」

「じゃあ、悠希に決めてもらえばいいじゃん!」


エリカは、悠希を見る。


「悠希は、どっちがいい? アタシのおまじないと……このお婆ちゃんの知恵袋と」

「お婆ちゃんの知恵袋、言うな!」


抗議の声を上げる香澄。


その賑やかな声は、キッチンのさくらまで届いていた。







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