桜の花びら舞う頃に
「さ、さくらちゃん……ど、どうしたの?」

「忘れ物!」


ぶっきらぼうにそう言うと、椅子の隣りに置いてあったハンドバッグを拾い上げる。


「ごめんね、バカで!」


その声は、明らかに怒っている。


「い、いや、違うんだ!」

「何が違うの!? 2人にチヤホヤされて、あんなに楽しそうだったじゃない!」

「……楽しそう?」

「間接キス~とか言ってさ!」

「あ、あれは、俺が言ったんじゃない!」


つい、悠希の口調も荒くなる。




(違う……あたしは、喧嘩するつもりなんてないのに!)




この激しいやり取りの中、さくらの心は叫んでいた。




(あたしは、素直に謝りたかったのに……)




しかし、口から出る言葉は、自分の意に反してエスカレートしていく。




(なんで……こんな……)




素直になれない自分が悔しくて、思わず瞳に涙が浮かぶ。


「何よ! もう、悠希くんなんて!」

「だから、違うって!」

「これだったら……あたしが来なくても良かったよ!」

「いい加減にしろっ!」


悠希は、勢い良く立ち上がる。


その剣幕に、さくらは思わず目をつぶった。








< 373 / 550 >

この作品をシェア

pagetop