桜の花びら舞う頃に
しかし━━━





「ゆ、悠希くん……?」




さくらは、強く抱き締められていた。



「俺は……さくらちゃんが来てくれて、本当に嬉しかったんだよ?」



優しく、諭すように言う悠希。


「雑炊だって、本当に美味しかったし……」

「悠希……くん……」

「そりゃあ、あの2人……特にエリカの暴走を止められなかったのは悪かったけど……」


悠希は視線を逸らし、少しだけバツが悪そうに小声で言う。


「でも俺は……さくらちゃんが来てくれたこと、それが一番嬉しかったんだ!」

「悠希くん……!!」


さくらを抱き締める悠希の腕に力が入る。



「俺は、俺は……!」







━━━しかし……







病に冒された体には、それ以上を伝える体力は残されていなかった。




「う……あ……」




力を使い果たしたように、悠希は崩れ落ちる。


「悠希くん!」


さくらはあわてて身体を支えると、ベッドに横にならせた。


「ごめんね、さくらちゃん……」

「ううん……」


激しく、首を横に振るさくら。


「あたしの方こそ……ごめんね」

「さくらちゃん……」


部屋に、穏やかな空気が流れる。

先ほどまでの喧騒が嘘のような……

お互いに相手を思いやる温かさが、そこにはあった。



「しかし……たまに風邪引くと、大変な騒動になるよな」



その空気に照れたように、悠希は苦笑いを浮かべる。


「ホントよね~」


さくらも笑う。


「早く、治さなくちゃな!」


悠希は横になったまま、胸の前で手のひらを拳で叩いた。



パーン



小気味よい、乾いた音が部屋に響き渡った。








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