桜の花びら舞う頃に
第7話『かすみ』
「おはようございます!」
午前8時15分。
モミノキ薬品の社内から、朝の挨拶が次々と聞こえてくる。
社員が1人、また1人と出社しているのだ。
その中にはスーツ姿の悠希もいた。
「おはようございます」
敷地内の駐車場にいる社員に挨拶をし、ビルの中に入ろうとする悠希。
その時……
「あーっ、月島くん! おはよーっ!」
駐車場を走り抜け、悠希の背中をポンと叩く女性の姿。
「おはようございます、香澄(かすみ)さん」
悠希は振り向き挨拶をする。
そこには、にこやかな笑顔を浮かべた近所のお姉さん系の女性が立っていた。
市川 香澄、28歳。
悠希の1つ上の先輩だ。
誰とでも仲良くなれる持ち前の明るさ、それでいて気の利く性格から、社内の人気者として君臨している。
この性格で、
何故いまだに浮いた話の一つも出ないのだろう……
と、疑問に思っていた悠希だったが、最近では
誰とでも友達になる性格が災いし、恋愛関係に発展しないのだろう……
と、勝手に思うことにしていた。