桜の花びら舞う頃に
第7話『かすみ』

「おはようございます!」


午前8時15分。

モミノキ薬品の社内から、朝の挨拶が次々と聞こえてくる。

社員が1人、また1人と出社しているのだ。

その中にはスーツ姿の悠希もいた。


「おはようございます」


敷地内の駐車場にいる社員に挨拶をし、ビルの中に入ろうとする悠希。



その時……



「あーっ、月島くん! おはよーっ!」


駐車場を走り抜け、悠希の背中をポンと叩く女性の姿。


「おはようございます、香澄(かすみ)さん」


悠希は振り向き挨拶をする。

そこには、にこやかな笑顔を浮かべた近所のお姉さん系の女性が立っていた。


市川 香澄、28歳。

悠希の1つ上の先輩だ。

誰とでも仲良くなれる持ち前の明るさ、それでいて気の利く性格から、社内の人気者として君臨している。


この性格で、

何故いまだに浮いた話の一つも出ないのだろう……

と、疑問に思っていた悠希だったが、最近では

誰とでも友達になる性格が災いし、恋愛関係に発展しないのだろう……

と、勝手に思うことにしていた。


< 38 / 550 >

この作品をシェア

pagetop