桜の花びら舞う頃に
「……どうしたの月島くん? 少し疲れてない?」
香澄は首を傾げる。
「えっ、そうですか?」
「うん、朝から大声出しましたーみたいな感じ」
(うっ、鋭い……)
自分では、面に出しているつもりは全くなかった。
女性の勘や観察力は時々怖いものがあるとつくづく思う。
「いや……なんでも……ないです」
朝のやり取りを思い浮かべ、苦笑いを浮かべる。
「それより香澄さん、昨日は休ませていただいて、ありがとうございました」
「いいえ~」
ニッコリと微笑む香澄。
「た~ちゃんの入学式、どうだった?」
「さすがのアイツも、少し緊張していたみたいですね」
「そうなんだ~」
そう言って2人で笑う。
「最近、全然た~ちゃんに会ってないから、今度遊びに行くね」
「ありがとうございます、アイツも喜びますよ」
悠希の言葉に、香澄はニッコリ微笑んだ。
「……た~ちゃんもとうとう一年生かぁ………ねぇ、担任はどんな先生?」
「え……担任……」
思わず口ごもる悠希。
「い、いや……いい先生だと思いますよ……たぶん」
「たぶん?」
悠希の手は汗を握る。
その様子に、香澄は不思議そうな表情を浮かべる。
「ねえ、月島く……」
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
香澄が何か言いかけた時、始業10分前を告げる予鈴が鳴った。
「ほ、ほらっ、香澄さん! 予鈴鳴ってますよ! 急がないと!」
そう言うと、悠希は急ぎ足でビルの中に消えていく。
「あっ、ちょっと待ってよ~!」
香澄もまた、悠希を追いかけビルの中へと消えていくのだった。