桜の花びら舞う頃に
「あ~あ、なんだか今日は疲れちゃったな~」


時を同じくして、さくらの声が車内に響く。


悠希のアパートの帰り道。

先ほどまで明るかった景色はすでに暗く、空には早くも星が輝いていた。


ハンドルを握るさくらは、一人つぶやく。


「あたし……やっぱり……エリカって苦手~」





そう言った瞬間━━━





~~~♪





さくらの携帯が、ポップなメロディーを奏でた。


突然の音に、一瞬ドキッとするものの……



「こ……この歌は、悠希くん……!」



みるみるうちに顔が、明るくなる。

さくらは安全を確認しつつ、車を道路脇に停車させた。




「も、もしもし?」

『もしもし、さくらちゃん』



電話は、果たして悠希だった。



『今日は、色々と本当にありがとう』


「悠希くん……」


『さくらちゃんには、ちゃんと言っておきたかったから……』



そう言うと、電話口の悠希は少し恥ずかしそうに笑う。


そんな悠希に、さくらの心の中は温かいもので満たされていく。


先ほどまでの疲れも、どこかに吹き飛んでいった気がした。



「ううん、悠希くん。あたしの方こそ、ありがとう」


『え?』


「こうして、電話してきてくれたこと……あたし、凄く嬉しいから……」


『さくらちゃん……』



さくらは運転席のドアを開けると、車から降りる。



10月の夜風は、さくらの頬を冷たくなでていった。







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