桜の花びら舞う頃に
「こちらでございます」



案内された先、それはホテル最上階のレストランだった。

壁が全てガラス張りのこのレストランは、周囲に高いビルが少ないこともあり、街を一望できる。

それはさながら、展望台のようだった。


昼間の壮大なこの風景は、夜になると更に変貌を遂げる。

ここから見る夜景は、まるで漆黒の宝石箱に輝く無数の宝石のよう。


テレビや雑誌などでも常に取り上げられ、カップルたちの絶好のスポットとなっていた。





━━━しかし、今のエリカに景色を楽しむ余裕はない。





エリカは、支配人の後をうつむきながらついて行く。


窓際の席の前で、不意に支配人の足が止まった。



「龍一様、エリカ様をお連れ致しました」



エリカは拳を握り締める。



背中を、汗が伝っていくのが感じられた。



支配人は、一礼するとその場から去っていく。



エリカは短く息を吸い込むと、覚悟を決めた。



勢い良く顔を上げる。

そして、無理やりに笑顔を作った。





「お久しぶりです、お兄様……」










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