桜の花びら舞う頃に
第46話『サヨナラ』
「はぁ……」



女性のため息が、超高層マンションのエレベーター内に響く。

疲れた表情を浮かべているのは、上品なドレスに身を包んだ女性━━━




━━━エリカだ。




その顔は、いつになく曇っている。


「今日は、疲れたな……」


つぶやきながら、エリカはエレベーターの壁に寄りかかった。

上昇する振動と重力が、疲れた身体に響く。





ややあって、エレベーターは21階でその動きを止めた。

エリカはエレベーターをおりると、自宅であるマンションの一室へと歩き出す。


転落防止の高い壁の間にある窓。


この窓から眺める風景は、大崎のホテルほどではないにしろ、かなり見晴らしがよい。


エリカは、そこから見える街並みが好きだった。


朝、昼、夜と姿を変えるその景色は、いつまで見ていても飽きないものがある。



しかし、今のエリカには、それを楽しむ余裕はない。


赤い夕日が、街並みを鮮やかに染め上げていても、エリカの眼はそこに向けられることはなかった。







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