桜の花びら舞う頃に
それから3日後……




エリカは、また同じホテルに呼び出された。


この前の展望台レストランの、この前と同じ席に座る龍一、そして津上。


津上はエリカの姿を見ると、優しい笑みを浮かべ会釈をする。


エリカも会釈を返しながら、この前と同じ席に座った。




軽食が運ばれてきて、少し早いランチとなる。


上質の肉。

新鮮な野菜。

焼きたてのパン。


そのどれもが素晴らしいものばかりだ。


しかし、兄に見られていると思うと、料理の味などわからなくなってしまうエリカだった。




エリカは、ふと顔を上げた。


正面に座る津上は、龍一と熱い会話をしている。





津上 誠。


もし、彼がとてもひどい人間というならば、エリカもここまで悩むことはなかっただろう。

形だけの婚約を済ませ、エリカは普段と変わらぬ生活を送っていたはずだ。



しかし、津上はそうではなかった。


その姿から、誠実さがにじみ出ている。

そんな津上を、さすがのエリカも邪険にすることは出来なかった。




(さすが……お兄ちゃんが目をつけただけのことはあるわ……)




心の中でため息をつくエリカ。


自分を見つめている視線に気付いた津上は、優しい笑みを見せる。

思わず、エリカは顔を赤らめて目をそらした。




(よく見てみると……結構カッコいい顔してるんだな……)




伏し目がちに、チラリと津上を見るエリカ。

津上は、龍一との会話に戻っていた。




(悠希と出逢わなかったら……もしかしたら……好きになってたかもね……)




少し興奮気味に話す津上の横顔を見つめながら、そう思うエリカだった。










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