桜の花びら舞う頃に
それからほどなくして、食事会は終わりを迎えた。



「それでは、また」



1階のロビーで2人に挨拶をすると、津上は外で待たせているタクシーへと歩き出した。




(アタシは……どうすればいいんだろ……)




その背中を見つめるエリカに、龍一はそっと近付く。



「……結納は来月に行うぞ」


「えっ!?」



その言葉に、エリカは驚き振り返る。


「何だ、その顔は? 不服なのか?」

「だって、そんな急に……」

「こちらにも、何かと都合があるのだ」


そう言って笑う龍一。

しかし、その目は笑ってはいない。


「そんな! アタシにだって都合がある!」

「お前の都合など問題ではない。……それに、身辺整理なら、ひと月もあれば十分だろう」


そう言って、龍一はジロリとエリカを見る。

エリカの全身から、冷たい汗が吹き出した。

蛇ににらまれた蛙とは、まさにこのことを言うのだろう。


「で、でもアタシ……津上さんのこと、まだよく知らないし……」

「そんなもの、これから知っていけば良い」


もはや、エリカには言い返す気力は残されていなかった。

龍一が考えを改めることなど、そうあるものではない。


エリカは、ただただ唇を噛み締め、うつむくしかなかった。










< 405 / 550 >

この作品をシェア

pagetop