桜の花びら舞う頃に
「よし、終わった~!」



モミノキ薬品の営業所内から聞こえてくる声。

悠希は、机の上の書類を片付けると、手の甲で額の汗を拭った。


「それじゃ、お疲れ様です」


悠希はハンガーにかけてあったスーツの上着を掴むと、同僚に挨拶しながら歩き出す。



「お疲れ様です、香澄さん」



出入り口のところにあるコピー機と、格闘している香澄にも声をかける。

香澄は悠希の声を聞くと、手を休め笑顔を見せた。


「お疲れ様、月島くん」

「……香澄さん、何してるんです?」

「う、うん……」


香澄は、コピー機に目を落とす。

コピー機は、様々なところのカバーが開いていた。



「香澄さん……もしかして、壊しました?」


「壊したんじゃないの! 壊れたの!」



顔を赤くして抗議する香澄に、悠希は苦笑いを浮かべる。


「仕方ないなぁ……ちょっと見せて下さい」


悠希は、香澄と場所を交換する。


「あ~、紙がこんなところに……」


香澄が見守る中、悠希は慣れた手つきでコピー機を触りだす。


「これ、無理やり引っ張っちゃダメなんだよな……このストッパーを外して……」

「どう? なおりそう?」


香澄は、心配そうにのぞき込む。


「ここをこうしてっと……よし、出来た!」

「え? もう?」


悠希が作業を始めてから、まだ5分ほどしか経っていない。


「試しに、コピーしてみて下さい」


笑顔の悠希とコピー機を代わる代わるに見ながら、香澄はコピーのスタートボタンを押した。



「あらっ!」



コピー機は、すんなりと動き印刷をする。

先ほどまでの苦戦が嘘のようだ。


「私が30分かけても、なおせなかったのに……」

「へへへっ、これ、コツがあるんですよ」


そう言って、悠希はイタズラっ子のような笑顔を見せた。







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