桜の花びら舞う頃に
「ホントにありがとう、助かったわ」


調子良く印刷を続けるコピー機をなでながら、香澄は礼を言う。


「他のコピー機を使ってもよかったんだけど……」


香澄は、照れたように頬をかく。


「このコピー機を放り出していくのは……ちょっと気が引けて……」

「あ~」


香澄の言葉に、大きくうなずく悠希。


「やっぱり、壊したままだと気になりますもんね」

「壊したんじゃなくて、壊れたんだってば!」


その後、所内に2人の笑い声が響き渡った。





「月島くん……帰るところだったのに、ゴメンね」

「いいえ~」


悠希は微笑む。


「香澄さんは、まだ上がらないんですか?」

「ううん、東櫻医大のプレゼン用資料をコピーしたら、上がるつもりよ」


そう言って、香澄は笑った。




所内に残る社員━━━


電話を受けていたり、パソコンと向かい合っていたり、書類を書いていたりしている人たちの間にも、そろそろ帰宅しようかという空気が流れていた。


「私は、あと15分くらいかな~」


香澄が、そう言った時……



「市川さーん」



先ほど電話をしていた社員が、香澄の名をを呼びながら歩いてきた。



「東櫻医大病院から、注文入りましたよ」


「え!?」


「薬が足りなくなるから、急ぎで持ってきてほしいって」


「えええっ!!」



突然増えた仕事に、ショックを隠せない香澄。



「あ……いいですよ香澄さん。俺、行きますから」



そんな香澄に、悠希は笑顔を見せた。



「あそこなら帰り道ですし……納品して帰りますよ」



そう言って、悠希は電話を受けた社員からメモを受け取るのだった。










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