桜の花びら舞う頃に
アパートに到着した悠希。

愛車のステーションワゴンを駐車場に停め、アパートの入り口へ歩いていく。

風が冷たいため、その足は自然と早歩きになる。


玄関の扉の前に立った悠希は、今日1日の疲れを外に置いていくかのように、大きく深呼吸をした。


「ただいまー」

「おかえりーっ!」


扉を開けるなり、拓海が飛びついてきた。


「うわっ、た~、びっくりしたぞ~!」


笑いながら拓海を受け止め、玄関を上がる。

ダイニングからは、美味しそうなシチューの香りが漂ってくる。


「おばあちゃんの言うこと、ちゃんと聞いてたか~?」

「うん、大丈夫だよ」


悠希に抱かれたままニコッと笑う、拓海の頭をなでる。


「お帰り、悠ちゃん」


ダイニングから現れる50代前半くらいの女性。


「お義母さん、いつもすいません」

「いいのよ、気にしないで。た~ちゃんは私たちの孫なんですから」

「すみません」


悠希は由梨の母親、拓海の祖母である、すみれに頭を下げる。



すみれ夫妻は、悠希たちの近所、車で15分程度のところに住んでいる。

そのため、由梨亡き後の平日は、いつも拓海に夕飯を食べさせに来てくれる。

すみれが来てくれるから、悠希は仕事に集中することができるのだ。



(本当にありがたいことだ)



悠希はつくづく思った。


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