桜の花びら舞う頃に
エリカの声が、辺りに響き渡る。

悠希は、あわてて頭を上げた。



「でも、これ以上は……」


「アタシね……」



そんな悠希を、エリカは手で制した。

そして、ゆっくりと話し出す。



「……アタシ、婚約するんだ」


「えっ?」



エリカは、膝についた土を落としながら立ち上がった。


「お兄ちゃんが決めたんだけどね……」


その顔は、寂しく微笑んでいる。


「政略結婚ってやつ? 笑っちゃうよね、今時さ」


その表情のまま、エリカは天を仰ぎ見た。

空には、無数の星が輝いている。



「エリカ……」


「だからね……」



エリカは、悠希に向き直る。




「だから、アタシは振られるんじゃない! アタシが振るんだからね!!」





星が輝く夜の空。

その下の2人を、冷たい風が抜けていく。



「エリカ……」



何かを伝えようと、悠希が口を開いた瞬間━━━




「あ、あれ?」




エリカの頬を、一筋の涙が伝う。



「あれ? あれ? おかしいな……」



あわてて、涙を拭う。

しかし、一度流れ出た涙を止めることは出来なかった。

次から次へと、涙が溢れ出てくる。




「━━━っ」




エリカは、その姿を見られぬよう、悠希に背を向けた。



「エリカ……」


「ね、ねえ! 一つだけ聞かせて」



エリカは、背を向けたまま話し出す。



「悠希の好きな人って……香澄?」


「……いや」


「そっか……」



その答えに、エリカは少し満足げにうなずいた。


そして、少しだけ悠希の方を振り返り



「サヨナラ……」



そう別れを告げると、自分の車に向かって走り出した。


走り去るエリカを、悠希は黙って見つめる。







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