桜の花びら舞う頃に
涙が止まらない━━━



早く、ここから立ち去りたい!




そう、心で叫ぶエリカ。

足がもつれそうになっても、それでも必死に走る。





その時、車の影から1人の男が姿を現した。




「あっ!」



エリカは足を止めると、あわてて涙を拭う。



「エリカさん……」



そこに現れた男は、津上 誠、その人だった。


「津上さんに……変なところ……見られちゃったかな……?」


エリカは、そう言って笑顔を作る。



その瞬間、エリカは抱きしめられていた。



「ちょ、ちょっと……津上さん!?」


「よく、頑張ったね……」



津上は、優しい声で言う。



「本当のエリカさんの心……初めて見た気がします」


「津上さん……」


「今は、彼のことで、その心はいっぱいかもしれないけれど……」



そして、そっとエリカを解放すると、言葉を続ける。



「いつか……僕で満たしてあげたい……そう、素直に思いました」


「津上さん……」



エリカは、津上を見つめる。




「僕たちには、時間はたっぷりあるんです……」




津上も、見つめ返す。




「これから、お互いをゆっくり知っていきましょう」




そう言って、津上は優しく微笑んだ。





温かい━━━





エリカは、津上の声に、微笑みに、その優しさに、懐かしい温かさを感じていた。


その温かさは、大好きだった祖父、源一郎にどことなく似ている。


夕焼けを背に、祖父と手をつないで歩いたあの道。


まだ、幼かったあの頃の気持ちを、津上は思い出させてくれる。






彼となら……


アタシは生きていける……






この日━━━


エリカは


兄のためではなく


自分のために……



そして



津上のために


津上と向き合おう


そう、胸に誓うのだった……











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