桜の花びら舞う頃に
「いい話って?」
注いだコップに口を付けるさくら。
身体中に、麦茶が染み渡っていく気がする。
『うん……あなたに、お見合いの話を持って来たんよ』
「ふ~ん……って、えっ!?」
さくらはコップを置くと、あわてて携帯電話を握り直す。
「お見合いって!?」
『それがいい話なんよ。あなたと同じ、学校の先生でね……』
「そんなこと、聞いとらんって!」
思わず、さくらは声を荒げる。
『……何で、そんな興奮しとるん?』
「だって、お母さんが突然……」
『うん、突然決まった話じゃけぇね』
そう言って、電話の向こうの母は笑った。
『今月末に3連休があるでしょ?』
さくらは、テレビの上の卓上カレンダーに目を向けた。
『その真ん中にするから、ちゃんと広島に帰ってくるんよ?』
「こ、今月末って……あと3週間じゃん!」
『そうよ?』
「そんな、強引なぁ……」
がっくりと、うなだれるさくら。
『何事も経験よ。それとも……誰かいい人でも出来た?』
「……え?」
一瞬、悠希の顔が頭をよぎる。
「ううん……それは、まだ……」
はっきりしていないという意味の答えだったのだが、つばきは違うようにとらえたようだ。
『じゃ、大丈夫ね! 待っとるよ~』
そう言い残して電話は切れた。
さくらは携帯電話を置くと、テレビの上の写真立てを見つめる。
「お見合いか……」
写真は、以前、墓参りの時に皆で撮影した集合写真だ。
拓海を中心に、寄り添って写る悠希、そしてさくら。
「はぁ……」
さくらは、ため息をつく。
「あたし……人のものになっちゃうかもよ……?」
つぶやきながら、人差し指で写真の悠希を突っついた。
それでも、その悠希は笑顔のままだった。