桜の花びら舞う頃に
しばしの沈黙……





先ほどまで聞こえていた人々の話し声や、木々のざわめきも、今のさくらにはとても遠くに感じる。


もし、悠希に恋をしていることがバレたなら、もうさくらは学校にはいられないだろう。

教師という職業も失うかもしれない。



再び、うつむくさくら。






その瞬間━━━






「あはははっ、ゴメンね!」



不意に、香澄は大声で笑い出した。

さくらは驚き、香澄を見る。

香澄は、微笑んでいた。



「ゴメンね。ちょっと意地悪したくなっちゃった」



そう言うと、ペロッと舌を出す。


「意地悪って……」

「安心して。そんな卑怯なことしないから」


香澄はイタズラっ子のように、鼻の頭にシワを寄せて笑った。


「私も、月島くんのことが好きだから、そんなことはしないわ」

「や……やっぱり……香澄さんも好きだったんですね……」


さくらの言葉に、香澄は『ふふふっ』と、笑う。


「バレてた?」

「はい……なんとなく……」

「そっか……」


香澄は、空を見た。

鳥が2羽、頭上を飛んで行く。



「ねぇ……」



香澄は、その鳥たちを目で追いながら口を開いた。



「私……月島くんに、告白してもいい……?」


「……え?」



香澄は視線を戻し、さくらを見つめる。

木々のざわめきが、いっそう大きくなった気がした。


「ど……どうぞ。あたし……お見合いがあるから……」

「お見合い!?」


今度は、香澄が驚く番だった。


「はい……今月末の3連休の真ん中に……地元で……」

「そうなんだ……」


さくらは、笑顔を見せる。



「だから……あたしのことは気にしないで下さい!」



そして、一礼すると、さくらは大通りに向かって走り出した。











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