桜の花びら舞う頃に
「……でさ、俺は思うワケよ」



2人の後輩社員が、話しながら悠希と同じように自動販売機で缶コーヒーを買っている。


2人は、歩きながら飲み口を開けると、悠希の2つ隣りの椅子に腰を下ろした。


缶コーヒーを飲み終えた悠希は、席を立とうとする。



その時、後輩社員たちの話し声が、耳に飛び込んできた。




「市川さんっていいよな~」




(えっ?)




思わず、浮かした腰をもう一度下ろす悠希。


「市川 香澄さん……仕事も出来るし、綺麗だし、話してて楽しいし……」

「理想の女性だよな~」


後輩たちは、うっとりしたような顔で話す。


確かに、香澄は人気があった。

美人だが気取ることがなく、誰とでも気さくに話すことから、男性、女性分け隔てなく支持されている。


「あ~、あんな人と付き合ってみたいよな~」

「前に付き合ってる人はいないって聞いたけど……」

「うん、好きな人とかいるのかな?」


そして、後輩は悠希に顔を向けた。


「月島さんは知ってます?」

「え……」


突然、自分に話が振られ驚く悠希。


「市川さんの好きな人ですよ」


後輩は、笑いながら言う。


「ああ……」


緑地公園での香澄の告白が頭をよぎる。




『私……月島くんのことが好きよ……』



『ずっと前から……あなたのこと好きだったの』




思わず、顔が赤くなりそうになる。

しかし、そこは持ち前の演技力で平静を装うと、



「いや……知らないなぁ」



後輩には、そう答える悠希だった。









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