桜の花びら舞う頃に
「あっ、月島くん!」



その時、不意に呼ばれた名前に、悠希は振り向いた。

後輩たちの顔色が変わる。


「月島くん、ここにいたのね」


そこには、噂の人、香澄がいた。


「香澄さん……」

「月島くん、MRの豊岡さんから電話よ」

「は、はい、ありがとうございます」


悠希は返事をすると、あわてて立ち上がる。




(香澄さんは、いつも変わらないんだよな……)




告白した後も、いつもと変わらない様子の香澄。

逆に、悠希の方が萎縮してしまう。




(あれは夢? 俺の聞き間違い?)




悠希は首をひねりながら、空になった缶を空き缶入れに捨てた。

そして、事務所へと歩き出す。




香澄とすれ違う瞬間……




「返事、ちゃんと考えてくれてる?」




そっと、香澄はささやいた。


悠希は、あわてて振り返る。



「ほらっ、早く行った行った!」



そこには、笑顔を浮かべた香澄がいた。




(やっぱり……現実だ……)




悠希の心臓は、激しく高鳴るのだった……










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