桜の花びら舞う頃に
「そして……悠希くん……」



この街の思い出として、悠希のことを切りはずすことは出来ない。

悠希は、涼介を失って以来、さくらが大切に思えた特別な人だからだ。



「でも……」



さくらは、窓に手を当てた。



「香澄さんが告白するって言ってた……」



窓に手を当てたまま、さくらはうつむいた。



「悠希くん……」



さくらは携帯電話のメールメニューを呼び出す。

そして、項目を選び、決定ボタンを押す。







新着メール
問い合わせ中━━━







しかし……







━━━新着Eメールは
ありません







悠希からの着信、そしてメールは、あの緑地公園の日以来なくなった。

瞳に涙が浮かぶ。



「悠希くんは、きっと香澄さんを選んだんだ……」



こぼれ落ちた涙は、携帯電話を濡らしていく。



「悠希くん……香澄さんには『好き』って言ったのかな……?」







涙に濡れたさくらの瞳……


流れ行く街並みは、もはや、にじんで


見ることは叶わなかった……










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