桜の花びら舞う頃に
第49話『光り射す場所へ』
水の重みで傾いた竹筒が、中の水を吐き出して元の位置に戻る。

戻った竹筒は、大きな庭石を叩く。




カコ━━━ン!




辺りに、澄んだ音が響き渡った。







「いい音色ね……あの鹿威し(ししおどし)」



さくらの母、つばきは、窓の外に広がる日本庭園をうっとりと見つめた。



「ねぇ、お父さん」


「ん……ああ……」


お父さんと呼ばれたのは、さくらの父、綾瀬 剛也(あやせ たけや)。




剛也は、太めの身体を不機嫌そうに揺らして答える。

しかし、その目は部屋に飾ってある掛け軸をにらんだまま。



「……さくらには、まだ早い……お見合いなんて、まだ早い……」



ぶつぶつと、呪文のように繰り返す剛也。


「そんなに反対なら、なくて良かったんだけどな~」


父と母に挟まれたさくらは、疲れたようにため息をついた。






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