桜の花びら舞う頃に
3人は今、料亭『白流湖』の一室にいる。


目的は、もちろんさくらの見合いのため。


相手方は、今は店との打ち合わせのため、席を外している。


つばきは、相手方が座るはずの座椅子を見つめた。



「でもねぇ……いい縁談なのよ~」



つばきは、のんびりとした口調で言葉を続ける。


「お相手の岡村 由伸(おかむら よしのぶ)さんもね、学校の先生をやってらっしゃるのよ」

「え、先生?」

「そう。凄く真面目で誠実で……さくらにピッタリだと思ったから、お母さんお見合いを了承したんよ」

「勝手にぃ……」


さくらのため息混じりのつぶやきに、つばきはクスッと笑う。


「そう言わないの。それに、特にいい人いないんでしょ?」


一瞬、悠希の顔が頭をよぎる。

しかし、それは無理やり記憶の奥へと押し込んだ。


「うん……まぁ……」

「じゃあ、いいじゃない! きっと、あなたも気に入ってくれるハズよ」


笑みを浮かべた顔の前で、つばきはその手をパンと合わせた。


「さくら……嫌なら正直に言っていいからな!」


真っ直ぐ前を見つめたまま言う父に、さくらの気持ちは少し楽になる。


「ありがとうお父さん……でも……あたしも前に進まないと……」

「ん……そうか……」


剛也は、少し照れたように頭をかいた。








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