桜の花びら舞う頃に
(悠希くんも、これくらい言ってくれたらいいのに……)




さくらは、由伸をチラリと見た。

由伸の笑顔までも、日差しを浴びて輝いているように見える。



「……らさん」




(でも……悠希くんじゃ無理か……)




由伸から目をそらすと、さくらは短くため息をつく。



「……くらさん」




(あの人……そういうことには疎いから……)




「さくらさん!」


「は、はいっ!?」



悠希のことで頭がいっぱいになっていたさくらは、自分を呼ぶ声に心臓が口から飛び出しそうなほど驚いた。



「す、すみません、ちょっと、ぼ~っとしちゃって……」


「いや……きっとお疲れなんですよ」



謝るさくらに、由伸は優しい笑みを見せる。


「良かったら……この後、ドライブでもしませんか?」

「ドライブ……ですか?」

「はい。とても景色がいいところを知ってるんです」


由伸は、ポケットに手を入れた。

車の鍵を握る音が、微かに聞こえてきた。






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