桜の花びら舞う頃に
それから1時間が過ぎた。


「ここも違いました……」


助手席に戻った悠希は、ガックリうなだれる。


「見つからないものじゃのぅ……」

「そうですね……」


ため息をつく悠希。

丸くなったその肩を、大貫はバシバシと叩いた。


「兄さん、あきらめたらいけんよ! まだ、15軒じゃが!」

「……そうですね! 俺は……あきらめるワケにはいかないんだ!」


悠希は、前を見据える。



「まだ、13軒! まだまだ、これから!」



さりげなく大貫の間違いを訂正しつつ、気合いを入れ直す悠希。

しかし隣りの大貫は、軒数の訂正など気にする様子もなく、アクセルを踏み込むのだった。









それから、更に1時間が過ぎた。


「もう30軒は廻ったのに……見つからんもんじゃのぅ」


大貫は、ため息をつく。

本当は25軒なのだが、もはや悠希は訂正する気も失せていた。







2人を乗せた車は、1軒の料亭の前に停車する。



「ここは料理はもちろん、壮大な日本庭園があることでも有名な料亭だ」



大貫は、ハンドルを抱くようにしながら料亭の建物を見た。


「日本……庭園か……」


つぶやく悠希。




(結構……さくらちゃんが、好きそうな雰囲気だな……)




悠希は、そう思いながら車から降りた。


「さぁ、行ってこい!」

「はい……行ってきます!」


そう言って、疲れた身体を引きずりながら料亭の入り口に向かって歩き出した。



『白流湖』と、看板に書かれた、その料亭に……









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