桜の花びら舞う頃に
その瞬間━━━





悠希は、さくらを後ろから抱きしめていた。





「ゆ、悠希くん?」


「良かった……」



悠希は、ゆっくり口を開く。



「俺……さくらちゃんに何も返せてないから……」


「え……?」


「俺の心は、さくらちゃんに救ってもらった……でも、さくらちゃんには、まだ何も……」




「そんなことない!」




その言葉に、さくらは優しく首を横に振った。



「あたしだって……悠希くんから色々なものをもらったんだよ……」


「そう……なの?」


「もちろん!」



さくらは、力強く答える。



「優しさ、心強さ、温もり……そして……」



言いながら、その手をそっと悠希の手に重ねる。



「そして……再び人を愛する気持ちを……」


「さくらちゃん……」



抱きしめる悠希の手に力が入った。



「それは……俺も……同じだよ……」



悠希は、遠い目をする。



「正直、最初は……さくらちゃんが由梨に似ていたから……それで、とても気になっていた」


「……悠希くん」


「━━━でも、いつの間にか、その気持ちは変わっていた……」



優しい笑みが、その顔に浮かぶ。



「今は、由梨に似ているからじゃない……さくらちゃんだから、抱きしめたいんだ!」


「悠希……くん……」


「さくらちゃんの心も身体も、全て……」


「悠……希……くん……」



さくらの瞳から、涙が溢れる。

それは頬を伝い、こぼれ落ち、抱きしめる悠希の手を濡らした。



「さくらちゃん……俺は今、この胸の想いを全て君に伝える!」



悠希は、深く息を吸い込む。





「さくらちゃん、俺は━━━!!」




「待って!!」










< 480 / 550 >

この作品をシェア

pagetop