桜の花びら舞う頃に
「麻紀ちゃん!」
店内に入って来た女の子に玲司は声をかける。
「……あっ、三上さん!」
「や、やあ、偶然だね!」
どうやら、この子が玲司のお気に入りらしい。
玲司は席を立ち、にこやかな笑顔で彼女の方へと歩み寄る。
そのすれ違いざま、悠希に早口で耳打ちをした。
「悪い! 今日は作戦を練ろうと思っていたのだが……予定が早まった! 悠希、サポート頼む!」
「サポートって……」
悠希は思わずつぶやく。
「頼むぞ……! ……あれ? 麻紀ちゃん、友達と2人なんだ~」
もう一度、短く念を押すと、玲司は彼女たちに言葉を向けた。
「偶然だね、俺もなんだ!」
上機嫌な玲司の声。
(俺と話してる時とは全然違う声だな)
そう思いながら、悠希は振り向いた。
「はじめまして……」
営業ボイスで挨拶をする悠希だったが……
「あっ!」
次の瞬間、フレアの中に男と女、2人の声が響き渡るのだった。